Press Release
育ち盛りの巨大ブラックホール
- 新手法で続々発見 -
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記者発表日時: | 2012年5月18日(金)14:00-15:00 |
発表者: | 寺島雄一(愛媛大学大学院 理工学研究科 准教授) |
概要
多くの銀河の中心には、太陽の1000万倍から10億倍の質量を持つ巨大ブラックホールが存在すると考えられています。そのような巨大ブラックホールがどのように作られてきたのかは、全くわかっていません。 我々は、その形成・成長過程を知るために、ブラックホールからのX線に着目した全く新しい手法を用いて、質量がまだ小さく成長途上にあるブラックホールを探索し発見することに成功しました。この発見は、ブラックホールの形成・成長過程解明の基礎になるものです。
解説
1. 背景 - 銀河中心の巨大ブラックホール -
多くの銀河の中心には 太陽の1000万倍から10億倍の質量を持つ巨大ブラックホール(注1)が存在すると考えられています。巨大ブラックホールがどのように形成され、巨大質量へと成長してきたかを理解することは、未解決の重要課題です。ブラックホールは、周囲のガスを吸い込んだり、ブラックホール同士が合体したりして成長してきたと考えられていますので、成長途上にあるブラックホールを探し出すことが、ブラックホール成長を理解するために有効です。そこで、我々はまだ質量がそれほど大きくなっていない成長途上にあるブラックホールの探索を行いました。
2. 新手法 - X線変動で探索する成長途上のブラックホール -
ブラックホールに周辺のガスが落ち込むと、ガスは高温になりX線を放射します。そのため、X線を観測することでブラックホールの存在をとらえることができます。ブラックホールの周囲から放射されるX線は、時間とともに明るさが変化します(図1)。これまでの研究から、質量の小さいブラックホールからのX線は激しく変動し、質量が大きいとゆるやかに変動することが知られていました(図2、図3)。このことを応用し、X線変動が激しい天体を探すことで、質量がまだ小さく成長途上のブラックホールの探索を行いました。X線変動を利用するこの探索手法は世界で初めてのものです。
3. 結果
我々はヨーロッパのX線天文衛星「ニュートン」のデータを利用しました。ニュートン衛星は視野が約30分角と広いため、観測の目標天体以外にも多数のX線源が写りこみます。1999年の打ち上げ以降のデータをもとに、今では26万天体以上のX線源がカタログ化されています。その中から顕著なX線変動を示す1100天体を抽出し、詳しく解析した結果、15天体がこれまでに全く認識されていなかった銀河中心核巨大ブラックホールであることがわかりました。X線変動を利用してブラックホール質量を推定したところ、7天体の質量が太陽質量の200万倍以下という、巨大ブラックホールとしては最も小さい部類のものであることがわかりました。また、距離が知られていて明るさ(エネルギーの放射量)を評価することができた10天体のうち、少なくとも6天体にはブラックホールに質量が激しく降り着もり、今まさに急成長しつつある(注2)ことがわかりました。このことは、ブラックホール同士の合体ではなく、周囲のガスを吸い込んで成長しているブラックホールが実際に存在していることを示しています。
4. 研究成果の意義と今後
今回の研究により、我々の新手法が成長途上のブラックホールを見つけ出すのに有効であることが実証できました。過去の研究からブラックホールの成長は濃いガスに覆われた状態でより進むという示唆があります。X線はレントゲンに用いられることからもわかるように透過力にすぐれているため、ガスに埋もれて成長するブラックホールを発見する手段として利用可能です。埋もれた成長のようすまで観測することで、大きな謎である「宇宙の中でブラックホールが成長してきた歴史」を明らかにできることが期待されます。
また、成長の過程を本当に理解するためには、ガスがブラックホールへと降り積もっていく運動のようすを直接とらえることが重要です。2014年に打ち上げ予定の日本の次期X線天文衛星ASTRO-H(アストロH)は、ガスの運動を極めて精密にとらえることができる装置が搭載されます。その観測からもブラックホール成長の解明が期待されます。
注1 ブラックホールは、質量によって大きく二つに分けられ、太陽の数十倍以下の質量のものを
恒星質量ブラックホール、太陽の数100万倍程度以上の質量のものを巨大ブラックホールと呼び
ます。文中の「ブラックホール」ということばはすべて後者を指しています。
注2 ブラックホールに降り積もるガスが明るく輝くと、その光の圧力はガスが降り積もるのを
妨げようとします。ガスがブラックホールに引かれる重力と、光の圧力がガスを吹き飛ばそうとす
る力がつりあうときの明るさ(エネルギー放射量)をエディントンの限界光度と呼びます。これより
明るくなると(球対称の形状では)質量降着を起こすことができなくなります。
ここでは、この限界の20%以上で明るく輝いているものを「質量が激しく降り積もっている」
ものとしました。
この研究成果は、専門誌「アストロフィジカルジャーナル」2012年5月20日号に掲載予定です。
“A New Sample of Candidate Intermediate-Mass Black Holes Selected by X-ray Variability”
Kamizasa, N., Terashima, Y., & Awaki, H. 2012, Astrophysical Journal
研究チーム
上笹尚哉 (かみざさ なおや) 愛媛大学大学院理工学研究科 博士前期課程 2012年3月修了
寺島雄一 (てらしま ゆういち) 愛媛大学大学院理工学研究科 准教授
粟木久光 (あわき ひさみつ) 愛媛大学大学院理工学研究科 教授
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図1 ブラックホールとその周囲の想像図
ガスが円盤状に回転しながらブラックホールに降り積もっていく。局所的にエネルギーが開放されることで、円盤のいろいろな場所でX線が明滅するように輝く。図中の白っぽいスポット状の領域が特に明るく輝いている。(イラスト(c) 落合隆郎)
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図2 (左)質量が小さいブラックホール からのX線の変動
今回発見した天体のうちの一つXMM J120143.6-184857で、質量は太陽の120万倍。
(右)質量が大きいブラックホール からのX線の変動
天体名はFairall 9 (フェアオール9)で、質量は太陽の2億3000万倍。
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図3 変動の振幅とブラックホール質量との関係
質量の小さいブラックホールほど激しい変動を示す。
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参考URL
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